ナッシュ均衡(Nash Equilibrium)は、ゲーム理論における重要な概念で、複数のプレイヤーがそれぞれの戦略を選択した結果、誰も自分の戦略を変更するインセンティブを持たない状態を指します。この均衡状態では、各プレイヤーが他のプレイヤーの行動を考慮した上で、自分にとって最適な戦略を選んでいます。
ナッシュ均衡の特徴
- 安定性:
- 各プレイヤーが現在の戦略を変更しても、自分の利得が増加しないため、戦略が固定されます。
- これにより、ゲームの結果が予測可能になります。
- 非協力的状況:
- プレイヤー間の協力がない場合でも成立する均衡です。
- 例: 価格競争や広告戦争などのビジネスシナリオ。
- 複数の均衡:
- ゲームによっては、複数のナッシュ均衡が存在する場合があります。
ナッシュ均衡の例
ナッシュ均衡の概念をより具体的に理解するため、いくつかの詳細な事例を挙げて説明します。
1. 囚人のジレンマ(Prisoner's Dilemma)
この古典的なゲーム理論のケースを考えてみましょう:
問題設定:
- 2人の囚人が逮捕され、それぞれが「裏切る(他者を告発する)」か「協力する(沈黙する)」を選べます。
- 選択によって刑期が以下のように決まります:
- 両者が沈黙(協力):各自2年の刑。
- 両者が裏切る(告発):各自5年の刑。
- 一方が沈黙し、もう一方が裏切る:裏切った側は無罪、沈黙した側は10年の刑。
ナッシュ均衡:
- 両者が「裏切る」を選ぶ状態。
- なぜなら、相手が沈黙しても裏切れば刑期が短縮され、相手が裏切っても自分が裏切れば不利を回避できるため、変更するインセンティブがありません。
2. 価格競争(Price Competition)
競合する企業が商品価格を設定するケースを見てみましょう。
問題設定:
- 2社が同じ製品を販売しており、価格を「高く設定する」か「低く設定する」を選べます。
- 以下の条件を仮定:
- 両社が高く設定する場合:利益は各社50万円。
- 片方が低く設定した場合:低価格の企業は利益100万円、高価格の企業は利益10万円。
- 両社が低く設定した場合:利益は各社30万円。
ナッシュ均衡:
- 両社が「低く設定する」を選ぶ状態。
- 片方が価格を変更しても、競合の利益を減らすだけで、自社の利益は改善されないため変更するインセンティブがありません。
3. 交通渋滞(Traffic Congestion)
ドライバーが異なる経路を選ぶ場合を考えます。
問題設定:
- ドライバーは「混雑した主要道路」か「遠回りの副道」のどちらかを選択可能。
- 主要道路を選ぶと、混雑により移動時間が増加。
- 副道を選ぶと、混雑は少ないが距離が長いため時間がかかる。
ナッシュ均衡:
- ドライバーがそれぞれ、自分の移動時間が最短になるように選んだ結果、主要道路と副道の選択が均衡状態に。
- 各ドライバーが経路を変更しても、移動時間が短縮されないため変更するインセンティブがありません。
4. 広告戦争(Advertising Competition)
競合企業が広告予算を決定する場合を考えます。
問題設定:
- 2社が広告費を「増加させる」か「抑える」を選択可能。
- 以下の条件を仮定:
- 両社が広告費を抑える:売上は安定、利益は各社100万円。
- 両社が広告費を増加させる:売上は増加するが広告費がかさみ、利益は各社80万円。
- 一方が広告費を増加させ、もう一方が抑える:増加した側の利益は120万円、抑えた側は50万円。
ナッシュ均衡:
- 両社が広告費を増加させる状態。
- 一方が広告費を抑えると、もう一方が市場で優位になるため、変更するインセンティブがありません。
ナッシュ均衡の応用
- 経済学: 市場競争や価格設定の分析。
- 政治学: 国際関係や政策決定のシミュレーション。
- 日常生活: 交通渋滞や家庭内の役割分担など。
ナッシュ均衡は、合理的な意思決定を理解するための強力なツールです。