ITシステムの刷新や全社的なDX基盤の導入など、規模が大きく複雑なプロジェクトを管理する際、「スケジュール通りに進んでいるか」「予算はオーバーしていないか」を正確に把握することは非常に重要です。
しかし、「作業は進んでいるけれど、追加人員を投入したため予想以上にコストがかかっている」といった事態は現場でよく発生します。このような状況を定量的に可視化する強力な手法が「EVM(アーンド・バリュー・マネジメント)」です。
今回は、プロジェクトマネジメントの基本知識であるEVMの概念と、実践で使える基本指標について解説します。
EVM(アーンド・バリュー・マネジメント)とは?
EVM(Earned Value Management)は、プロジェクトの計画、実行、完了までのパフォーマンスを「コスト(金額)」という共通の尺度で統合的に評価・管理する手法です。
プロジェクトマネジメントの世界標準である「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)」においても、進捗とパフォーマンスを測定する重要な方法論として定義されています。情報処理推進機構(IPA)が実施する各種認定試験でも頻出のコア知識体系です。
従来の管理手法ではスケジュール(日数)とコスト(円)を別々の単位で管理しがちでしたが、EVMではこれらを統合し、「現在の作業成果(出来高)」を金銭的な価値に換算して評価するのが最大の特徴です。
抑えておくべき3つの基本指標
EVMを理解するためには、まず以下の3つの基本となる数値を把握する必要があります。これらはすべて「金額(または工数)」で表されます。
| 指標 | 英語表記 | 意味 |
| PV | Planned Value (計画価値) | 現時点までに完了しているはずの作業の「予定予算額」 |
| EV | Earned Value (出来高) | 現時点までに実際に完了した作業の「実績価値(予算ベース)」 |
| AC | Actual Cost (実コスト) | 現時点までに完了した作業に費やした「実際のコスト」 |
例えば、「総予算100万円の機能を10日間で開発する(1日あたり10万円)」という計画があったとします。
5日目が経過した時点で、半分(50万円分)終わっている予定が、実際には40%(40万円分)しか終わっておらず、しかもその作業に60万円かかってしまった場合、各数値は以下のようになります。
- PV:50万円(5日目時点の計画)
- EV:40万円(実際の出来高)
- AC:60万円(実際にかかったコスト)
プロジェクトの健全性を測る4つの分析指標
上記の「PV」「EV」「AC」を用いて、スケジュールとコストの差異や効率を計算します。数式は非常にシンプルです。
1. スケジュールの差異と効率を測る
- SV(スケジュール差異:Schedule Variance)
SV = EV - PV- 見方: 0以上なら前倒し(またはオンスケジュール)、マイナスならスケジュール遅延。
- SPI(スケジュール効率指数:Schedule Performance Index)
SPI = EV / PV- 見方: 1.0以上なら計画より効率的に進行中。1.0未満なら計画より遅れ。
2. コストの差異と効率を測る
- CV(コスト差異:Cost Variance)
CV = EV - AC- 見方: 0以上なら予算内、マイナスなら予算オーバー(赤字)。
- CPI(コスト効率指数:Cost Performance Index)
CPI = EV / AC- 見方: 1.0以上なら予算より高効率(黒字)。1.0未満ならコスト超過。
先ほどの例(PV=50万, EV=40万, AC=60万)に当てはめると、SV = -10万円(遅延)、CV = -20万円(予算オーバー)となり、プロジェクトが危険な状態にあることが数字で明確に示されます。
EVMを導入する実践的なメリット
客観的な将来予測(着地見込み)が立てられる
EVMの最大のメリットは、現在の効率(CPIやSPI)を元に、プロジェクト完了時の総コスト見込み(EAC:Estimate at Completion)を数学的に予測できる点です。
「現場の勘」や「希望的観測」に頼るのではなく、データに基づいた客観的な着地見込みが算出できるため、経営層やステークホルダーへの的確な報告・エスカレーションが可能になります。
まとめ
EVMは、大規模なポータルサイト構築や業務ラインのシステム化といったプロジェクトにおいて、現状の健康状態を客観的に診断するための「体温計」のような存在です。
アルファベットの略語が多く最初は戸惑うかもしれませんが、3つの基本指標(PV・EV・AC)さえ押さえてしまえば、プロジェクトの透明性を飛躍的に高めることができます。ぜひマネジメントの引き出しの1つとして活用してみてください。

