PMBOK(Project Management Body of Knowledge)において、「作業実績データ(Work Performance Data)」は、プロジェクトの実行中に収集される、個々の作業に関する実績値や観察結果のことです。これは、プロジェクトの監視・コントロールを行うための基礎となる生データであり、まだ分析や解釈が加えられていない状態の情報です。
PMBOK第6版では、作業実績データは「プロジェクト作業の指揮・マネジメント(Direct and Manage Project Work)」プロセスから出力され、その後の「監視・コントロール」プロセス群で分析され、「作業パフォーマンス情報(Work Performance Information)」や「作業パフォーマンス報告書(Work Performance Reports)」へと変換されます。
作業実績データの主な種類と例
作業実績データは、プロジェクトの様々な側面に関する情報を含みます。具体的な種類と例としては、以下のようなものが挙げられます。
1. スケジュールに関するデータ:
- 開始日と終了日の実績: 各アクティビティが実際にいつ開始し、いつ完了したか。
- 所要期間の実績: 各アクティビティに実際にかかった時間。
- 進捗状況: 各アクティビティの完了度合い(例:50%完了、完了)。
- マイルストーン達成状況: 各マイルストーンが計画通りに達成されたか。
- 残存作業量: 各アクティビティまたはワークパッケージに残っている作業量。
例:
- 「タスクA」:実績開始日 2025年4月15日、実績終了日 2025年4月18日、実績所要期間 4日間、進捗 100%。
- 「設計レビュー」マイルストーン:実績達成日 2025年4月22日(計画達成日 2025年4月22日)。
- 「コーディング」:進捗 70%、残存作業量 30時間。
2. コストに関するデータ:
- 実績コスト: 各アクティビティまたはワークパッケージに実際にかかった費用。
- 資源消費量: 人的資源、資材、設備などの実際の使用量。
- 支払い実績: ベンダーへの支払い状況。
例:
- 「タスクB」:実績コスト 1,200ドル。
- プログラマーA:実績作業時間 40時間。
- 材料X:実績使用量 10ユニット。
3. スコープに関するデータ:
- 完了した成果物: 実際に完成し、承認された成果物。
- 品質に関するデータ: テスト結果、欠陥数、是正処置の実施状況。
- 要求事項の充足度: 収集された要求事項がどの程度満たされているか。
例:
- 「要件定義書」:承認済み。
- テストケース10件中、合格8件、不合格2件。
- 主要な機能A:顧客による受け入れ完了。
4. 資源に関するデータ:
- 資源の利用状況: 各資源がどの程度利用されているか。
- 資源の稼働率: 各資源の計画された稼働時間に対する実際の稼働時間。
- チームのパフォーマンス: チームメンバーの作業時間、生産性など。
例:
- 会議室C:4月22日に3時間使用。
- 設計チーム:平均稼働率 90%。
5. コミュニケーションに関するデータ:
- コミュニケーションの実施状況: 会議の開催状況、報告書の配布状況など。
- フィードバックの収集状況: ステークホルダーからのフィードバックの量と内容。
例:
- 週次進捗会議:予定通り毎週月曜日に開催。
- ステークホルダーAからのフィードバック:設計に関する懸念事項2件。
6. リスクに関するデータ:
- 発生したリスク: 実際に発生したリスクとその影響。
- リスク対応の実施状況: 計画されたリスク対応策の実行状況。
例:
- 「サプライヤーの遅延」リスク:発生、スケジュールに2日間の遅延。
- 代替サプライヤーへの切り替え:完了。
7. 調達に関するデータ:
- 契約履行状況: ベンダーによる契約内容の履行状況。
- 納品物の受領状況: 調達した製品やサービスの受領状況。
例:
- ベンダーYからの納品物:予定通りに受領。
8. ステークホルダー・エンゲージメントに関するデータ:
- ステークホルダーの参加状況: 会議やイベントへの参加度合い。
- ステークホルダーの満足度: アンケート結果やフィードバック。
例:
- キックオフミーティング:主要なステークホルダー全員が参加。
- 顧客満足度アンケート:平均評価 4.5(5段階評価)。
作業実績データの重要性
作業実績データは、プロジェクトの現状を把握し、将来のパフォーマンスを予測するための基礎となります。これらのデータを適切に収集・分析することで、以下のようなことが可能になります。
- 進捗状況の把握: プロジェクトが計画通りに進んでいるかを確認できます。
- 問題点の早期発見: 遅延やコスト超過などの潜在的な問題を早期に特定できます。
- 適切な意思決定: 状況に基づいた客観的な意思決定を行うことができます。
- パフォーマンスの改善: 過去のデータ分析を通じて、今後のプロジェクトのパフォーマンス向上に役立てることができます。
- ステークホルダーへの報告: プロジェクトの状況を正確にステークホルダーに伝えることができます。
プロジェクトマネージャーは、これらの作業実績データを定期的に収集し、分析することで、プロジェクトを成功に導くための適切なアクションをタイムリーに実行する必要があります。