PMBOK第6版における組織構造は、プロジェクトの進め方やプロジェクトマネージャーの権限に大きな影響を与えます。主な3つの型について詳しく解説します。
1. 機能型組織(Functional Organization)
特徴:
- 組織が、営業、マーケティング、製造、エンジニアリングなどの機能別に階層化されています。
- 各従業員には、明確な直属の上司が一人います(機能部門のマネージャー)。
- プロジェクトは、通常、各機能部門内で管理され、部門の目標達成のために実施されます。
- プロジェクトマネージャーの役割と権限は限定的であることが多く、調整役や連絡係に近い場合があります。
- プロジェクトに必要な作業は、各機能部門の責任者に依頼され、部門の優先順位に従って実行されます。
プロジェクトにおけるメリット:
- 専門知識とスキル: 各部門が専門知識を持つため、高度な技術や専門性が求められるプロジェクトに適しています。
- 効率性: 定常業務においては、確立されたプロセスと専門性により効率的な作業が期待できます。
- キャリアパス: 従業員は、自身の専門分野でのキャリアパスを追求しやすいです。
プロジェクトにおけるデメリット:
- 部門間の調整の難しさ: プロジェクトに必要なリソースや協力が複数の部門にまたがる場合、調整に時間と労力がかかり、対立が生じやすいです。
- プロジェクトへのコミットメントの低さ: 従業員は機能部門の目標を優先するため、プロジェクトへの優先順位が低くなることがあります。
- 全体像の把握の難しさ: プロジェクトメンバーは自身の担当範囲に集中しやすく、プロジェクト全体の目標や進捗状況を把握しにくいことがあります。
- プロジェクトマネージャーの権限不足: プロジェクトマネージャーがリソースやスケジュールを直接コントロールできないため、プロジェクトの推進が困難になることがあります。
2. プロジェクト型組織(Projectized Organization)
特徴:
- 組織の構造が、プロジェクトごとに編成されます。
- プロジェクトマネージャーは、プロジェクトに必要な人的・物的資源を指揮・管理する高い権限を持ちます。
- プロジェクトチームのメンバーは、通常、そのプロジェクトに専任で割り当てられます。
- プロジェクトが完了すると、チームメンバーは解散し、他のプロジェクトに異動するか、組織から離れることがあります。
プロジェクトにおけるメリット:
- 高いプロジェクトへの集中: チームメンバーはプロジェクトの目標達成に専念しやすく、一体感が生まれやすいです。
- プロジェクトマネージャーの強い権限: 資源の割り当てや意思決定を迅速に行うことができ、プロジェクトを効率的に推進できます。
- 明確な責任: プロジェクトマネージャーがプロジェクト全体の責任を持ち、チームメンバーも自身の役割と責任を明確に認識しやすいです。
- 迅速な意思決定: プロジェクト内での意思決定が迅速に行われやすいです。
プロジェクトにおけるデメリット:
- 部門間の知識共有の不足: プロジェクトごとにチームが独立しているため、他のプロジェクトや機能部門との知識や経験の共有が不足しがちです。
- 資源の重複: 複数のプロジェクトが同時に進行する場合、同じようなスキルを持つ人材や設備が重複して必要になることがあります。
- キャリアパスの不確実性: プロジェクト終了後のチームメンバーの配置が不安定になることがあります。
- チームメンバーの所属意識の低下: プロジェクトが終わると解散するため、組織への長期的な所属意識が希薄になることがあります。
3. マトリクス型組織(Matrix Organization)
特徴:
- 機能型組織とプロジェクト型組織の中間的な形態です。
- チームメンバーは、機能部門の上司とプロジェクトマネージャーの二人の上司を持つことになります。
- プロジェクトマネージャーは、特定のプロジェクトにおける活動を管理しますが、機能部門のマネージャーは、技術的な専門性やキャリアパスなどを管理します。
- マトリクス型組織は、プロジェクトマネージャーの権限の強さによって、さらに以下の3つのタイプに分類されます。
- 弱いマトリクス型(Weak Matrix): 機能部門のマネージャーの権限が強く、プロジェクトマネージャーは調整役や連絡係に近い役割です。プロジェクトマネージャーの権限は非常に限られています。
- バランス型マトリクス型(Balanced Matrix): 機能部門のマネージャーとプロジェクトマネージャーが同程度の権限を共有します。リソースの割り当てや意思決定には両者の協力が必要です。
- 強いマトリクス型(Strong Matrix): プロジェクトマネージャーの権限が強く、専任のプロジェクトマネージャーが配置され、プロジェクトに必要なリソースを管理する権限を持ちます。機能部門の役割は、技術的な支援や専門知識の提供が中心となります。
プロジェクトにおけるメリット:
- 資源の効率的な活用: 複数のプロジェクトで専門知識を持つ人材を共有できます。
- 知識と経験の共有: 機能部門とプロジェクトチーム間で知識や経験を共有しやすいです。
- 柔軟性: プロジェクトのニーズに合わせて、チーム編成や資源の割り当てを柔軟に行うことができます。
- プロジェクトへの注力(強いマトリクス型): 強いマトリクス型では、プロジェクトマネージャーが強いリーダーシップを発揮し、プロジェクトを推進できます。
プロジェクトにおけるデメリット:
- 二重の報告ラインによる混乱: チームメンバーは二人の上司からの指示を受けるため、優先順位の混乱や対立が生じることがあります。
- 権限の衝突: 機能部門のマネージャーとプロジェクトマネージャーの間で、権限や責任範囲が曖昧になり、対立が生じることがあります。
- コミュニケーションの複雑化: 二人の上司とのコミュニケーションが必要となるため、情報伝達が複雑になることがあります。
- リソースの奪い合い: 複数のプロジェクトが同じリソースを必要とする場合、リソースの割り当てを巡って対立が生じることがあります。
組織構造の選択は、組織の文化、戦略、プロジェクトの特性など、様々な要因によって決定されます。プロジェクトマネージャーは、所属する組織構造の特性を理解し、その中で効果的にプロジェクトを推進していく必要があります。