PMBOK(Project Management Body of Knowledge)では、プロジェクトの推進の流れは、5つのプロセスグループを通じて行われると定義されています。これらのプロセスグループは、プロジェクトのライフサイクル全体にわたって実行され、各フェーズにおいても繰り返されることがあります。
以下に、5つのプロセスグループと、それぞれの主な活動内容、および相互の関係性について詳しく説明します。
1. 立ち上げ(Initiating)
目的: プロジェクトまたはフェーズを定義し、開始を正式に承認すること。
主な活動:
- プロジェクト憲章の作成(Develop Project Charter): プロジェクトの目的、範囲、主要なステークホルダー、プロジェクトマネージャーの権限などを高レベルで記述し、プロジェクトの存在を正式に承認する文書を作成します。
- ステークホルダーの特定(Identify Stakeholders): プロジェクトに影響を与えたり、影響を受けたりする可能性のある個人、グループ、または組織を特定し、彼らの関心、影響力、およびプロジェクトへの関与度を分析します。
アウトプット: プロジェクト憲章、ステークホルダー登録簿
ポイント: このプロセスグループは、プロジェクトの基盤を築く非常に重要な段階です。プロジェクトの目的が明確になり、主要な関係者の合意を得ることで、その後のフェーズがスムーズに進む可能性が高まります。
2. 計画(Planning)
目的: プロジェクトの目標を達成するために必要な範囲、スケジュール、コストなどを定義し、管理するための計画を策定すること。
主な活動:
このプロセスグループには、10の知識エリアに対応する多くの計画プロセスが含まれます。主要な計画プロセスには以下のようなものがあります。
- プロジェクトマネジメント計画書の作成(Develop Project Management Plan): 全ての計画プロセスからのアウトプットを統合し、プロジェクトの実行、監視・コントロール、終結の方法を記述した包括的な文書を作成します。
- スコープマネジメント計画(Plan Scope Management): プロジェクトのスコープを定義、妥当性確認、コントロールする方法を文書化します。
- 要求事項の収集(Collect Requirements): プロジェクトのニーズや期待を定義し、文書化します。
- スコープ定義(Define Scope): プロジェクトの成果物と必要な作業を詳細に記述します。
- WBS作成(Create WBS): プロジェクトのスコープを、より小さく管理しやすいコンポーネントに階層的に分解します。
- スケジュールマネジメント計画(Plan Schedule Management): プロジェクトのスケジュールを管理する方法を確立します。
- 活動の定義(Define Activities): プロジェクトの成果物を生成するために必要な具体的な活動を特定します。
- 活動の順序設定(Sequence Activities): 活動間の依存関係を特定し、順序付けます。
- 活動所要期間の見積もり(Estimate Activity Durations): 各活動を完了するために必要な時間を見積もります。
- スケジュールの作成(Develop Schedule): 活動、依存関係、所要期間に基づいてプロジェクトスケジュールを作成します。
- コストマネジメント計画(Plan Cost Management): プロジェクトコストを計画、構造化、管理、監視する方法を定めます。
- コストの見積もり(Estimate Costs): プロジェクトに必要な資源のコストを見積もります。
- 予算の決定(Determine Budget): 個々の活動やワークパッケージのコストを集計し、全体の予算を確立します。
- 品質マネジメント計画(Plan Quality Management): プロジェクトおよび成果物の品質基準と、それを達成する方法を特定します。
- 資源マネジメント計画(Plan Resource Management): プロジェクトに必要な人的および物的資源をどのように獲得、管理、および使用するかを定義します。
- コミュニケーションマネジメント計画(Plan Communications Management): プロジェクトのコミュニケーションニーズを特定し、コミュニケーション活動を計画します。
- リスクマネジメント計画(Plan Risk Management): プロジェクトのリスクを特定、分析、対応する方法を計画します。
- リスクの特定(Identify Risks): プロジェクトの目標達成を脅かす可能性のあるリスクを特定します。
- リスク対応計画(Plan Risk Responses): 特定されたリスクに対する対応策を開発します。
- 調達マネジメント計画(Plan Procurement Management): プロジェクトに必要な製品やサービスを外部から調達する方法を決定します。
- ステークホルダー・エンゲージメント計画(Plan Stakeholder Engagement): ステークホルダーのニーズ、期待、関心を特定し、プロジェクトの意思決定と実行への参加を促進するためのアプローチを開発します。
アウトプット: プロジェクトマネジメント計画書とその補助計画書(スコープ管理計画書、スケジュール管理計画書、コスト管理計画書、品質管理計画書、資源管理計画書、コミュニケーション管理計画書、リスク管理計画書、調達管理計画書、ステークホルダー・エンゲージメント計画書など)
ポイント: 計画プロセスグループは、プロジェクトの進め方を詳細に定義する段階であり、この段階での綿密な計画が、その後の実行フェーズの成功を大きく左右します。
3. 実行(Executing)
目的: 計画で定義された作業を実施し、プロジェクトの成果物を完成させること。
主な活動:
- プロジェクト作業の指揮・マネジメント(Direct and Manage Project Work): プロジェクトマネジメント計画書に従ってプロジェクトの作業を実行し、成果物を生成します。
- 品質のマネジメント(Manage Quality): プロジェクトの品質要求事項を満たすために、品質ポリシー、プロセス、および手順を適用します。
- 資源の獲得(Acquire Resources): プロジェクトに必要な人的および物的資源を確保します。
- チームの育成(Develop Team): プロジェクトチームのスキルと能力を向上させるための活動を実施します。
- チームのマネジメント(Manage Team): プロジェクトチームのパフォーマンスを追跡し、フィードバックを提供し、問題を解決し、チームの変更を管理します。
- コミュニケーションのマネジメント(Manage Communications): プロジェクト情報を収集、作成、配布、保管、検索、および最終的な廃棄を行います。
- リスク対応の実施(Implement Risk Responses): 合意されたリスク対応計画を実行します。
- 調達の実施(Conduct Procurements): 必要な製品やサービスを外部のベンダーから取得します。
- ステークホルダー・エンゲージメントのマネジメント(Manage Stakeholder Engagement): ステークホルダーのニーズや期待に対応し、問題を解決し、ステークホルダーのエンゲージメントを促進します。
アウトプット: 作業パフォーマンスデータ、成果物、変更要求など
ポイント: 実行プロセスグループは、計画に基づいて実際にプロジェクトの作業を進める段階です。効果的なコミュニケーションとチームワークが重要となります。
4. 監視・コントロール(Monitoring and Controlling)
目的: プロジェクトの進捗状況を追跡、レビュー、調整し、計画との差異を管理すること。
主な活動:
このプロセスグループは、プロジェクト全体を通して実行され、他のプロセスグループと密接に関連しています。
- プロジェクト作業の監視・コントロール(Monitor and Control Project Work): プロジェクトのパフォーマンスを追跡、レビュー、報告し、プロジェクトマネジメント計画と比較して差異を特定し、必要な是正処置や予防処置を推奨します。
- 統合変更管理の実施(Perform Integrated Change Control): 全ての変更要求をレビュー、評価、承認し、変更を管理し、成果物、プロジェクト文書、およびプロジェクトマネジメント計画への変更を記録および伝達します。
- スコープ・コントロール(Control Scope): プロジェクトおよび成果物のスコープの変更を監視し、スコープベースラインからの逸脱を管理します。
- スケジュールのコントロール(Control Schedule): プロジェクトのスケジュールを監視し、スケジュールの遅延を防ぎ、管理します。
- コスト・コントロール(Control Costs): プロジェクトの予算を監視し、コストの超過を防ぎ、管理します。
- 品質のコントロール(Control Quality): プロジェクトの成果物が品質基準を満たしていることを監視および記録します。
- 資源のコントロール(Control Resources): 人的および物的資源の使用状況を監視し、計画と比較して差異を管理します。
- コミュニケーションの監視(Monitor Communications): プロジェクトのコミュニケーション活動がステークホルダーのニーズを満たしているかを監視し、調整します。
- リスクの監視(Monitor Risks): 特定されたリスクを監視し、新たなリスクを特定し、リスク対応計画の有効性を評価します。
- 調達のコントロール(Control Procurements): ベンダーとの関係を管理し、契約の履行状況を監視し、必要に応じて変更や修正を行います。
- ステークホルダー・エンゲージメントの監視(Monitor Stakeholder Engagement): ステークホルダーとの関係を監視し、エンゲージメント戦略の有効性を評価し、必要に応じて調整します。
アウトプット: 作業パフォーマンス情報、変更要求、変更ログ、教訓登録簿の更新など
ポイント: 監視・コントロールプロセスグループは、プロジェクトが計画通りに進んでいるかを確認し、問題が発生した場合には適切な対応を行うために不可欠です。
5. 終結(Closing)
目的: プロジェクトまたはフェーズを正式に完了させること。
主な活動:
- プロジェクトまたはフェーズの終結(Close Project or Phase): 全てのプロジェクト活動、フェーズ、または契約を正式に完了させ、最終的な成果物を引き渡し、関係者に完了を通知し、必要な文書をアーカイブします。
アウトプット: 最終的な製品、サービス、または結果、最終報告書、組織プロセス資産の更新
ポイント: 終結プロセスグループは、プロジェクトをきちんと締めくくり、教訓を将来のプロジェクトに活かすために重要です。
プロジェクト推進の流れの全体像
プロジェクトは、通常、立ち上げから始まり、計画、実行、監視・コントロールを経て、最終的に終結を迎えます。ただし、これらのプロセスグループは、プロジェクトのライフサイクル全体にわたって相互に作用し、繰り返されることがあります。
- 反復性: 特に大規模または複雑なプロジェクトでは、計画、実行、監視・コントロールのプロセスは、プロジェクトの各フェーズやイテレーションごとに繰り返されることがあります。
- 相互作用: 各プロセスグループのアウトプットは、他のプロセスグループのインプットとなることが多く、プロジェクト全体を通じて情報や成果物が流れ続けます。
- テーラリング: PMBOKはあくまでガイドであり、プロジェクトの特性やニーズに合わせて、どのプロセスをどのように適用するかを検討する(テーラリング)ことが重要です。
このように、PMBOKにおけるプロジェクト推進の流れは、明確なプロセスグループと知識エリアに基づいて体系化されており、プロジェクトマネージャーはこれらの知識とスキルを活用して、プロジェクトを成功に導くことが求められます。