PMBOK(Project Management Body of Knowledge)第7版でより強調されている「プロジェクト・ベネフィット・マネジメント計画書(Project Benefits Management Plan)」は、プロジェクトが創出する予定の便益(ベネフィット)を定義、測定、実現、維持するための活動を記述した文書です。
従来のPMBOKでも便益の実現はプロジェクトの重要な目的として認識されていましたが、第7版では「価値(Value)」の提供がプロジェクトマネジメントの中心的な原則の一つとして掲げられ、この計画書の重要性がより明確になっています。
プロジェクト・ベネフィット・マネジメント計画書の目的
主な目的は以下の通りです。
- 便益の明確化: プロジェクトがどのような便益を組織にもたらすのかを具体的に定義し、ステークホルダー間で共通認識を持つこと。
- 便益の測定: 定義された便益をどのように測定するのか、具体的な指標(KPIなど)と測定方法を定めること。
- 便益の実現: プロジェクトの成果物を活用して、計画された便益を実際に達成するための活動を特定し、責任者を明確にすること。
- 便益の維持: プロジェクト終了後も便益を持続させるための計画を立てること。
- 便益のモニタリング: 便益の実現状況を定期的に監視し、必要に応じて是正措置を講じること。
- 組織戦略との整合性: プロジェクトが組織の戦略目標にどのように貢献するのかを明確にすること。
プロジェクト・ベネフィット・マネジメント計画書の主な構成要素
プロジェクト・ベネフィット・マネジメント計画書に含めるべき一般的な要素は以下の通りです。
- プロジェクトの正当性(Project Justification): プロジェクトを実施する理由、ビジネスニーズ、組織戦略との関連性などを記述します。なぜこのプロジェクトが価値を生み出すのかを明確にします。
- 定義された便益(Defined Benefits): プロジェクトによって創出される具体的な便益を記述します。定量的(売上増加、コスト削減など)および定性的(顧客満足度向上、ブランドイメージ向上など)な便益を含みます。
- 便益の測定方法(Benefits Measurement): 各便益をどのように測定するのか、具体的な指標(KPI: Key Performance Indicator)と測定時期、測定責任者を明確にします。ベースラインとなる現状値も記述します。
- 便益実現計画(Benefits Realization Plan): プロジェクトの成果物を活用して、定義された便益を実際に達成するための活動、責任者、スケジュールなどを記述します。プロジェクト終了後の活動も含む場合があります。
- 便益維持計画(Benefits Sustainment Plan): プロジェクト終了後も便益を持続させるための計画、責任者、必要なリソースなどを記述します。組織のプロセスや体制の変更などが含まれることがあります。
- 便益モニタリング計画(Benefits Monitoring Plan): 便益の実現状況をどのように監視し、報告するのか、頻度、報告先などを記述します。
- 便益の前提条件とリスク(Benefits Assumptions and Risks): 便益の実現に影響を与える可能性のある前提条件やリスクを特定し、それらへの対応策を検討します。
- ステークホルダーの役割と責任(Stakeholder Roles and Responsibilities): 便益の実現、測定、維持に関わるステークホルダーの役割と責任を明確にします。
- 便益実現のタイムライン(Benefits Realization Timeline): プロジェクトの各段階と、便益がいつ頃から実現し始めるのか、その推移などを視覚的に示します。
プロジェクト・ベネフィット・マネジメント計画書の重要性
この計画書を作成し、適切に管理することは、プロジェクトの成功を測る上で非常に重要です。
- 価値主導のプロジェクト管理: プロジェクトの目的を単に成果物の作成だけでなく、組織への価値提供に焦点を当てることで、より戦略的なプロジェクト管理を実践できます。
- ステークホルダーの期待管理: プロジェクトがもたらす便益を明確にすることで、ステークホルダーの期待を適切に管理し、共通の目標意識を持つことができます。
- 投資対効果の明確化: プロジェクトの便益とコストを比較することで、投資の正当性を評価しやすくなります。
- プロジェクトの成功基準の明確化: 単にスケジュールや予算の達成だけでなく、組織への便益の提供をプロジェクトの重要な成功基準とすることができます。
- プロジェクト終了後の評価: プロジェクト終了後に、実際にどの程度の便益が実現されたのかを評価し、教訓を将来のプロジェクトに活かすことができます。
まとめ
プロジェクト・ベネフィット・マネジメント計画書は、プロジェクトが組織にもたらす価値を最大化するための重要な文書です。プロジェクトのライフサイクル全体を通じて参照され、定期的に見直されることで、プロジェクトが戦略目標達成に貢献し、持続的な便益をもたらすことを নিশ্চিতにします。プロジェクトマネージャーは、この計画書の作成と管理を通じて、単なる作業の遂行者ではなく、価値創造の推進者としての役割を果たすことが求められます。